さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「……うるさい」
茂樹が盛大に顔を顰めつつ、呻いた。
「先刻から耳元で……ギャンギャン騒ぎやがって…… おまえの声は……耳につくんだ」
——な、な、なんですってぇっ⁉︎
「ちょっと、茂樹さんっ!
わざわざ来てくれた光彩先生に、なんてことをっ⁉︎」
わたしが怒鳴り返す寸前、翔くんが大声で叱ってくれた。
「……別におれが呼んだわけじゃない」
——はああぁ⁉︎
彼の上体を支えてやっている手を離して、突き飛ばしてやろうかと思った。
「た、確かに茂樹さんのスマホを借りて光彩先生を呼んだのはおれですが……そんな言い方はないでしょう?」
本業は大学生の翔くんは、わたしたちよりもうんと歳下なのに、学業の傍らお祖父さん が営む店の仕事を黙々とこなしている。
自分より遥かに歳上相手であろうと気負うことなく穏やかに接客をしつつ、お祖父さんを手伝って主に下働きをしている。
そんな彼が——今夜は怒り心頭だ。
「だいたい、いい歳して、いつまでも見栄張って意地張って……何やってるんっすか!」
茂樹の心に向かって、しかもど真ん中に……翔くんの「言葉の矢」がぐっさりと突き刺さった。
——グッジョブ、翔くん!
ぐうの音も出ないのであろう、茂樹は苦々しげに顔を背けるしかなかった。