さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
先刻わたしには、お母さんやわかばちゃんの『次に優先するべきは大恩ある富多家——将吾さまだ。公私共に支えるべきお方だ』って、ドヤってたくせに……⁉︎
また、カッと頭に血が上りそうになった。
——でも……ちょっと待って……
そのとき、まるで天から降りたもうたお告げのごとく、わたしにある仮説が浮かんだ。
「……ねぇ、茂樹。
あんたがTOMITAを辞めるってことはさ、あの大恩ある富多副社長から逃げ出すわけだよね?」
とたんに、茂樹の表情が曇った。
「あぁ……そうなるな……」
富多家には今まで親子ともども金銭的にさんざん支えてもらってきたのだ。
——罪悪感が半端ないだろうに……
「なのに、そうするってことはさ……
副社長から逃げ出さざるを得なくなった事由ができたから……なんじゃないの?」
すかさず、切れ長の鋭い目が射殺すような冷淡さでわたしに差し向けられる。
「——おまえ、なにが言いたい?」
だけど、わたしはたじろぎもせず「仮説」を披露した。
「たとえばさ、そうね……
副社長の婚約者と恋仲になってしまって、なにもかも捨てて二人で駆け落ちしたくなった……とか?」
「ばっ、バカなこと言うなっ!
彩乃さまが、おれなんかと恋仲になって駆け落ちするわけないだろう⁉︎
将吾さまとこの五月のGWに結婚式を挙げるんだぞ!
勝手な憶測だけで、そんな失礼なことを言うなっ‼︎」
たとえ怒ったとしても、いつもは辛辣なイヤミの一言で切り返してくる茂樹なのだが、今は声を荒げてすごい早口で捲し立ててきた。
——なんだ、図星じゃないの。
残念ながら、副社長の婚約者の「お嬢さま」の方には脈がなくて「二人で駆け落ち」とまではいかなかったみたいだけど……