さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「……でもね、茂樹」
わざと「教え諭してあげる」口調で彼に告げる。
今夜、お互い本心を曝け出して話せたことはうれしいのだが——その反面、こっ恥ずかしさも否めない。
だから、照れ隠しもあるかもしれない。
「昨今の社会では、荒波の中で困っていて法律の力で助けなければならないのは、なにも女性だけとは限らないのよ?」
——わたしの中にも『女性とは限らない』ことでの思い込みの偏見があったけどさ。
それをつい先日気づいたってことは……この際黙っておく。
だが、そんなことはつゆ知らぬバカ真面目な茂樹は、己を省みたのだろう。
「そりゃあ、まぁ……そうだろうな……」
神妙な面持ちになっている。
「あんたはさ、これから先も弱者から搾取しがちの阿漕な大会社で企業内弁護士として『殿様』な仕事しかしないわけじゃん?
だからさ、将来わたしの事務所に入ったとしても、立場の弱い人たちに寄り添って考えてあげられる『即戦力』になるか、とーっても不安なのよ」
「……なんだと?」
さすがに、茂樹が鼻白む。
弁護士としての「資質」に関わることだからだ。
「おまえだって大企業相手の、しかもその『弱者から搾取しがちの阿漕な大会社』の顧問弁護士じゃないか」
「ふんっ、お生憎さま!」
言いすぎたかな?と思いつつも……つい、いつもの調子で言い返してしまう。
「わたしは時々、おかあさんから仕事を請け負ってるから、ちゃーんと着々と『経験』積んでるわよ」
「人権派弁護士・君島 みき子」から頼まれる仕事は多種多様で、世間知らずで頭でっかちな知識だけではとうてい対処できない案件ばかりだった。
「おれだって……今までにTOMITAの会社を辞めて弁護士事務所に再就職して、そういう弁護士としてのちゃんとした『経験』を積んでみようと思ったことくらいあるさ。
しかも……つい最近な」
——えっ……?
茂樹が、TOMITAの企業内弁護士を辞めて弁護士事務所へ再就職……?