さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
広尾にある実家からは、ずーっと出たいと思っていた。
義母の冬美さんは、わたしとは一回りほどしか離れていなかった。
だけど、手のかかる幼い至公をほぼワンオペで育てる傍ら(父は激務なため、ほとんど家にいなかった)生さぬ仲であるわたしの面倒も、本当によくみてくれたと思う。
特に、中学から電車に乗って私立に通っていたわたしのお弁当をつくるために、毎朝五時には起床していた。
だから、心置きなく「親子三人」だけの家族にしてあげたいと思って、父と実母の母校であるC大の法学部に合格した暁に「一人暮らししたい」と申し出た。
すると、(ふだん子育てに一ヨクトたりとも参画してこなかったくせに)父が烈火の如く怒った。
わたしも負けじと家を出たい事由を次々と挙げていったが、さすがに相手は弁護士である。
その悉くを、完膚なきまでに論破されてしまった。
それから数年が経ち、法科大学院を経て司法試験に合格し、司法修習を終えて父の法律事務所に入るまで、決して許しが出ることはなかった。
そうして、ようやくのことで「独り立ち」できたのだが——