さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
スコットランドのアイラ島にあるボウモア蒸留所でつくられる、その名も「ボウモア」というスコッチウィスキーは、大麦の麦芽百パーセントである「モルト」を使って、全行程を一つの蒸留所だけでつくるシングルモルトで、「アイラの女王」と呼ばれている。
ところが、そんな優雅そうな名前にもかかわらず、原料の麦芽を石炭になりそこないの「泥炭ピート」で燻すことから、人によっては「薬くさい」と感じる癖のある独特の匂いを発していた。
いわゆる——「正露丸の臭い」だ。
しかし、部下の向井は、その童顔で愛らしい風貌とは裏腹に、わたしがボトルキープしているボウモアをロックでガンガン呑っていた。
気持ちの良い呑みっぷりだ。
わたしも負けじとロックでガンガン呷っていたら、アメリカンブラックチェリーのカウンターに置いていたプラベ用のiPhoneが、突如ヴヴヴッと鳴った。
LINE通話だった。
「だれからだろう?」とディスプレイに出た名前を見て……
わたしの顔が盛大に歪んだ。