さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
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わたしたちと同年代であるという料理長が腕を振るう「中国料理」は、大胆で斬新な中にも上品さと繊細さを兼ね備えていた。
まさに「新感覚の中国料理」である。
ということは、広東料理の伝統を守る横浜中華街とは違って、ベリーヒルズビレッジではかなり「冒険」をしているのかもしれない。
だけど、幼い頃から本店の味で育ってきたはずの誠彦さんも、そして相当舌が肥えていて、しかも味覚に関しては保守的だと思われるご両親ですら、革新的なこの味をしきりに感心しつつ満足げに味わっていらっしゃるように見えた。
そのまま和やかに料理長のお任せコースは進んでいき、やがて食後のお茶となった。
このメンバーの中では誠彦さんのお母様だけが弁護士ではないため仕事の話にはならず、自然と「菅野家」の話題になる。
誠彦さんのお兄さん・昭彦先生は、顧客である企業の社長令嬢とお見合いしてご結婚されたそうで、今は横浜青葉台にある実家でご両親と同居されていた。
「そろそろ、上の孫のお受験のことを考えなくてはね」
ガラスの茶器にお湯を注ぐと、たちまち大輪の花弁が開く「工芸茶」を見つめながら、誠彦さんのお母様がおっしゃった。
「わたしは大学までエスカレーター式で上がれるA学の系列校がいいと思うんだけれど、昭彦と有香子さんは女の子だから横浜F葉に入れたいって言うのよ。
どうやら、有香子さん自身が行きたかった女子校みたいね」
『有香子さん』というのは昭彦先生の奥さまである。
「兄貴たちがそう言ってるんなら、F葉でいいんじゃないの?」
誠彦さんがこともなげに言う。
さすがにご両親の前では、ふだん職場で見せる憎らしいまでにクールな面影はほとんどなく、まさに「末息子」だった。
「超進学校だから、もし将来弁護士を目指すのなら、ちょうどいいじゃん」
菅野家は、誠彦さんのお祖父様の代から続く「弁護士の家」と聞いている。
「あら、莉菜は女の子だもの。弁護士になんてさせないわ。
それに、うちの法律事務所の跡継ぎなら弟の悠真がいるし、何ならわたしと有香子さんの母校であるF女学院だっていいのよ。だって……」
わたしたちと同年代であるという料理長が腕を振るう「中国料理」は、大胆で斬新な中にも上品さと繊細さを兼ね備えていた。
まさに「新感覚の中国料理」である。
ということは、広東料理の伝統を守る横浜中華街とは違って、ベリーヒルズビレッジではかなり「冒険」をしているのかもしれない。
だけど、幼い頃から本店の味で育ってきたはずの誠彦さんも、そして相当舌が肥えていて、しかも味覚に関しては保守的だと思われるご両親ですら、革新的なこの味をしきりに感心しつつ満足げに味わっていらっしゃるように見えた。
そのまま和やかに料理長のお任せコースは進んでいき、やがて食後のお茶となった。
このメンバーの中では誠彦さんのお母様だけが弁護士ではないため仕事の話にはならず、自然と「菅野家」の話題になる。
誠彦さんのお兄さん・昭彦先生は、顧客である企業の社長令嬢とお見合いしてご結婚されたそうで、今は横浜青葉台にある実家でご両親と同居されていた。
「そろそろ、上の孫のお受験のことを考えなくてはね」
ガラスの茶器にお湯を注ぐと、たちまち大輪の花弁が開く「工芸茶」を見つめながら、誠彦さんのお母様がおっしゃった。
「わたしは大学までエスカレーター式で上がれるA学の系列校がいいと思うんだけれど、昭彦と有香子さんは女の子だから横浜F葉に入れたいって言うのよ。
どうやら、有香子さん自身が行きたかった女子校みたいね」
『有香子さん』というのは昭彦先生の奥さまである。
「兄貴たちがそう言ってるんなら、F葉でいいんじゃないの?」
誠彦さんがこともなげに言う。
さすがにご両親の前では、ふだん職場で見せる憎らしいまでにクールな面影はほとんどなく、まさに「末息子」だった。
「超進学校だから、もし将来弁護士を目指すのなら、ちょうどいいじゃん」
菅野家は、誠彦さんのお祖父様の代から続く「弁護士の家」と聞いている。
「あら、莉菜は女の子だもの。弁護士になんてさせないわ。
それに、うちの法律事務所の跡継ぎなら弟の悠真がいるし、何ならわたしと有香子さんの母校であるF女学院だっていいのよ。だって……」