さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「母さんっ!」
「おい、いくらなんでもそれは……」
誠彦さんとお父様が同時に声を上げた。
だが、すかさずわたしは彼らを目で抑えた。
そして、再び彼女の方に向き直る。
「残念ながら、わたしはわたしの父ではありませんので、彼が今現在幸せかどうかはわたしには判りかねます」
それから、龍生くんがこのワンピに合わせてコーディネイトしてくれたミニバッグの中から、ロエベのフラグメントケースを取り出す。
「パズル」と名付けられて三色構成になったそれは、さまざまな配色が展開されているが、わたしのは白・グレー・シルバーだ。
「本日はありがとうございました。
申し訳ありませんが、仕事を残して出てきましたので、そろそろ失礼させてください」
わたしはフラグメントケースからクレジットカードを一枚抜いて、円卓の上に置いた。
「わたしの分は、こちらでお願いします」
「待って、今夜の食事代はおれが……」
「いや、誠彦、そもそも私たちが君たちのデートに『便乗』したんだ。
だから、どうかここは私に任せてもらって、光彩さん、そのカードはしまいなさい」
誠彦さんを遮って、彼のお父様が上着の内ポケットから黒革のカードケースを出す。
「そうよ、まだそんなカードしか持てないような人に、たとえご自分の分だけとは言え、支払ってもらうわけにはいかないわね」
彼女はわたしのカードを一瞥して言った。