この男、危険人物につき取扱注意!
千夏は思いの丈を伝え終わると、“任せて!”と言わんとばかりに春樹へ満面の笑顔を向けた。
だが、その笑顔に納得出来ない春樹は、大きなため息と共に立ち上がると、デスクの上の電話へと手を伸ばした。
「悪いが、直ぐに俺の部屋に来てくれ」
(誰…呼んだの?)
呼び出されたその人物は、部屋の外に控えていたのか、春樹が受話器を置くよりも早くドアをノックした。
「入れ」
そして、姿を見せたのは坂下だった。
(え…坂下さん)
“失礼します”と言って部屋に入った坂下は、千夏の側までやって来た。
春樹の気持ちなど知らない千夏は、坂下へも笑顔を向けた。
そして、千夏は思いのままを笑顔で話した。
「石は何色にしたんですか?
やっぱり、坂下さんなら無色ですか?
曇りの無い愛、貴方だけの色に染まります?なんて…
ホント素敵ですよね?」
「…?」
千夏の言葉に、ただ首を傾げる坂下だった。
「指輪は大事にお預かりします。契約が解消されるその時まで」
「…若?」
千夏の話が全く理解出来ない坂下は、“通訳を”と言いたげに春樹へ助けを求めた。
すると春樹は徒労感に見舞われた顔で、
「不毛の恋とやららしい」と答えた。
「…は?不毛の恋…ですか?
…確かに…何かと問題も多いですから、不毛の恋と言えばそうかもしれませんね?」と、坂下は考え深い顔を見せた。
「坂下さんも大変でしょうけど頑張って下さい!」
「え…あ…はい。
ありがとうございます…?」
項垂れ二人の話を聴いていた春樹だが、これ以上は聞くに堪えないと顔を上げ口を開いた。
「坂下、俺とキスした覚えはあるか?」
「は…?」
「だから、俺達の関係は不毛の恋とやらか⁉︎」
「えっええ⁉︎
不毛の恋…ええ⁇
若と私がですか⁇」
「うさぎが見たらしい。
俺達がキスしてたところを!」
「ぃやややや!
ご、ご冗談を…いくら若の命令でも、それだけは…
私には妻も子供もおりますので、妻子を悲しませる行為は致しません!」
「え?坂下さん結婚してたんですか?」
「はい。
今年幼稚園に上がった息子もおります。
息子が産まれた際はあまりの可愛さに息子にキスしましたが、それ以降は嫁以外誰とも…
ましてや男…若とキスなどする訳がありません!」