この男、危険人物につき取扱注意!
(…どうしよう…はぁ…
“信じてみなさい”って、言われたけど…もし、私が正しかったら?
やっぱり会いたく無いなぁ…
でもなぁ…他に行く所無いし…
いくら会いたく無くても、会社を辞めない限り会うだろうし…)
叔父幸助の店を出る際、
“今日はこのまま実家に泊まる”と梨華は言い出したのだ。
家の近くの駅まで送るつもりでいた千夏だったが、
“大丈夫だから、春樹さんを信じなさい!”と言って梨華に送り出されていた。
梨華の言う通り春樹と話をしてみようと、会社の近くまでやって来た千夏だが、急に足が止まりどうしても先へ進む事が出来ずに居た。
そんな時、父浩司の言葉を思い出して居た。
“自分でやると決めた事は途中で逃げ出すな!”
まだ幼い頃、毎朝竹刀を振る父の後ろ姿に千夏は憧れ、浩司に剣道を教えてほしいと頼んだ事があった。
初めは女の子だからと浩司は笑って相手にしていなかったが、毎朝早起きまでして熱心に頼む千夏の姿にいつしか浩司も折れ、ついに千夏へ剣道を教えてくれる事となった。その際浩司から言われた言葉だった。
『パパは、厳しいぞ?
それでもパパに教えて欲しいか?』
『うん!パパが良い!』
『そうか…
じゃ、どんなに辛くても自分でやると決めたからには途中で逃げ出すなよ?』
『うん!』
『よし!パパと一緒に頑張ろうな?』
真冬の寒い朝も素足で庭に降り、凍えそうな手で竹刀を振るのは小さな子供にはとても辛かった。涙しながら竹刀を振る千夏へ、浩司は“自分で決めた事だろ⁉︎”と、とても厳しいかった。
だが、稽古が終わると浩司は優しい父親の顔に戻り、千夏の手足を温め毎日丁寧にクリームを塗ってくれた。
(ヨシ!お父さんとお母さんが信じてるなら、私も信じてみよう!)
通用口を通り千夏は社員証を提示すると警備員に電話を借り春樹へと電話した。
そして、非常階段で地下に降り春樹が来るのを待った。
