しあわせ食堂の異世界ご飯6
 丸眼鏡がチャームポイントの、気のいい女将さんだ。おおらかで恰幅のいいエマは、多くの常連客から慕われている。
 料理人だった夫を亡くし、今まで女手ひとつでカミルを育て、しあわせ食堂を守ってきた。

 同じくアリアを心配しているのは、エマの息子のカミルだ。
 オレンジ色の癖っ毛と、同じ色の瞳。爽やかな笑顔は人気があり、しあわせ食堂の看板息子なんて呼ばれることもある。
 アリアに料理を教えてもらって調理場を担当し、それに加えて仕入れも行っている頑張り屋さんだ。

 エマが肘でカミルのことをつついて、暗にアリアの様子を見てこいと促してくる。もちろんカミルだって心配していたので、行くつもりだったけれど。
「母さんは地味にお節介焼きだよな」
「それなら焼かれないように気をつけるんだね。ほら、行った行った」
 最後にどんっと勢いよく押されて、カミルが大きく一歩アリアの方へ足を踏み出してしまう。ダンと床についた足が音を立てて、それに気づいたアリアの視線がカミルに向けられた。
「カミル、大丈夫?」
「ああ。ちょっと母さんに押されただけ……。アリアこそ、元気がないみたいだけど大丈夫なのか?」
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