婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「“やどかり”ですか?」
早朝、庭で薪割をしていたビクターにヤドカリを見つけてきて欲しいと懇願すると、彼はあごに滴る汗を手の甲で拭いながら、首を傾げた。
「はい、ヤドカリです。こういった生き物ですの」
アンジェリ―ナはしたたかに微笑むと、あらかじめ用意していた紙を取り出す。そこには前世の記憶を頼りに描いた、渦巻き状の貝殻を被るヤドカリの絵が描かれていた。
我ながら精巧に描けたと自負しているアンジェリ―ナの絵を、ビクターは不思議そうに眺めている。
ヤドカリ飼育もまた、アンジェリ―ナが前世でするつもりだった趣味のひとつだった。水槽に入れて飼育し、定期的に新しい貝殻を与えてやるのに憧れていた。ヤドカリは、好みの貝があれば、脱皮のタイミングでそちらに移住する習性があるらしい。
自分で選んだ貝殻にヤドカリが移り住んでくれるなど、たまらない。アンジェリ―ナは、想像しただけで至福に浸るのだった。
「見たことのない生き物ですね。カタツムリのようなものですか?」
「いいえ。カタツムリとは違って、ヤドカリは貝殻を持たずにうまれてくるのです。そして、自分に合った貝殻を見つけ、次々に移り住んでいくのです」
「なるほど。そのような生き物がこの世に存在するとは知りませんでした」
感心したように絵を眺めているビクター。彼が顔を上げれば、アンジェリ―ナはすかさず微笑みかける。
「行ってくださいますか?」
早朝、庭で薪割をしていたビクターにヤドカリを見つけてきて欲しいと懇願すると、彼はあごに滴る汗を手の甲で拭いながら、首を傾げた。
「はい、ヤドカリです。こういった生き物ですの」
アンジェリ―ナはしたたかに微笑むと、あらかじめ用意していた紙を取り出す。そこには前世の記憶を頼りに描いた、渦巻き状の貝殻を被るヤドカリの絵が描かれていた。
我ながら精巧に描けたと自負しているアンジェリ―ナの絵を、ビクターは不思議そうに眺めている。
ヤドカリ飼育もまた、アンジェリ―ナが前世でするつもりだった趣味のひとつだった。水槽に入れて飼育し、定期的に新しい貝殻を与えてやるのに憧れていた。ヤドカリは、好みの貝があれば、脱皮のタイミングでそちらに移住する習性があるらしい。
自分で選んだ貝殻にヤドカリが移り住んでくれるなど、たまらない。アンジェリ―ナは、想像しただけで至福に浸るのだった。
「見たことのない生き物ですね。カタツムリのようなものですか?」
「いいえ。カタツムリとは違って、ヤドカリは貝殻を持たずにうまれてくるのです。そして、自分に合った貝殻を見つけ、次々に移り住んでいくのです」
「なるほど。そのような生き物がこの世に存在するとは知りませんでした」
感心したように絵を眺めているビクター。彼が顔を上げれば、アンジェリ―ナはすかさず微笑みかける。
「行ってくださいますか?」