三月のバスで待ってる
◯
「おはようございまーす!」
校門をくぐると、先生や生徒会らしい人たちの元気な声があちこちから飛んでくる。私は挨拶を返す余裕もなく、声の下をくぐるように彼らの前を通り過ぎた。
さっき一瞬だけ薄らいだ緊張は、学校に着く頃にはすっかり元通りだった。校庭を足早に通り過ぎ、下駄箱で靴を履き替え、職員室に向かう。
担任の加納先生は、40代後半の、理科の先生だ。
「おー櫻井、おはようさん」
と眠そうな目で言う。最初に会った時も思ったけれど、なんだかやる気のなさそうな先生だ。
少し説明を聞いて、加納先生が気だるげに「そろそろ行くかー」と立ち上がった。
……ついに、この時が来てしまった。
どんなに先延ばしにしたくても、時間を止めることはできない。
行きたくない、行きたくない、と心の叫びも届かず、着実に教室との距離が近づいていく。
「じゃ、呼んだら入ってきて」
加納先生が言って、先に入っていく。
ドクン、ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。足がすくむ。もういっそここで倒れてしまいたい。