三月のバスで待ってる



「ほ、ほんとにこれ着るの?私が?」

「そう。ああやっぱり私の見込み通り。櫻井さんにはこのワンピースが絶対合うと思ったんだぁ」

「そ、そう、ありがとう……」

うっとりする彼女に、私は苦笑で応えた。

3日前になってもコスプレ衣装を決められずに悩んでいた私に、クラスメイトの上原さんが、「櫻井さん、ちょっといい?」と手招きをした。

「衣装のことでお悩みで?」

占い師のような口調で語りかけてくる彼女に、その時点でなんとなく嫌な予感がしつつ、悩んでいるのは本当だったので、つい頷いてしまったのだ。

「それなら、私が櫻井さんにぴったりな衣装を選んであげよう」

「えっ、いいの?」

「もちろん」

にっこり笑って頷く彼女が一瞬救世主のように見えた、けれど。そういえばこの子、ロリータ服を集めるのが好きとか言ってたような……。

ハッと思い出した時にはもう、上原さんはどこからともなく取り出したメジャーでちゃきちゃきと私のウエスト周りを計りはじめていた。

「うん、サイズもぴったり。やっぱりアレに決まりね。アレしかないわ」

「あ、あの……」

「大丈夫。絶対気にいると思う。私を信じて。ね?」

迷いのない澄んだ眼差しでそんなことを言われたら、もう断るなんてできるはずがなかった。

そして、当日。

満を持して上原さんが差し出したのは、総レースで胸にリボン、袖はふんわりとしたバルーン型で肩が思いっきり出るタイプの白いワンピース。

こ、これを私に着ろと……!?

想像以上の露出とロリータ感満載の衣装に、私は顔面どころか頭まで真っ白になった。

「あれ?どうしたの?かわいすぎてびっくりしちゃった?」

「う、うん、私にはちょっとかわいすぎる気がするんだけど」

「いやいや、櫻井さんにはこういうふわふわした天使っぽいのが似合いそうだなって、初めて見た時からずっと思ってたんだよねぇ」

そんなに長い期間思われていたなんて、余計に断れない。というかもう本番だし、着る以外に選択肢がないのだけれど。

「わかった。じゃあ、着てみるね……」

恥を忍んで着替えてみると、上原さんの目が眩しいくらいに輝いた。

「ああやっぱり私の見込みに間違いはなかった。櫻井さん、最高に似合ってる!」

「そ、そうかな」

人前でこんなに肩をさらけ出すなんて、恥ずかしいを通り越してなんだか申し訳なさすら感じるんだけど。

上原さんはワインレッドに黒のレースがついたシックなドレス風のワンピースで、私もそっちがよかったな……と思うけれど、もちろんそんなことを言える雰囲気じゃなかった。

「わあ、深月かわいい!天使みたい!」

杏奈までそんなことを言う。

「杏奈のデビルもかわいいね。天使と悪魔ペアでコンテストでたら優勝だよ」

「悪魔じゃなくて小悪魔!てかコンテストとか恥ずいし出ないし」

「はいはいわかってるって」

盛り上がる女子たちの横で、私はひっそりと諦めのため息をついた。

周りを見渡せば、どこもかしこも色鮮やかな衣装であふれていて、中には大胆に肩や足を出している子もいたり。

この中にいるとだんだん私の格好も普段着に見えてくる気がする。集団心理っておそろしい。

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