三月のバスで待ってる
「そういえば鈴村は……って、学ラン!?」
「あー、考えるのめんどいから中学の学ランにした。微妙にきついけど」
「えー、見慣れてるから全然新鮮みがないんだけど」
「べつに新鮮み求めてないしな」
不満を言いつつ、でもカッコいい、という本音がもろに顔に出てしまっている杏奈。本人はいつも通りまったく気づいていないようだけれど。
「じゃ、行こっか」
と杏奈が言って、上原さんと小西さんも一緒に回ることになった。
「タピオカ飲みたーい」
「いいねーいこいこ」
各教室では有志の生徒たちが模擬店を出していたり、部活ごとに出し物があったり、見るものがたくさんあって目移りしてしまう。
こんなに楽しい行事は初めてだった。中学でも、高校でも、いままで一度も、行事を楽しいと思ったことなんてなかった。それなのに、いま、心から楽しいと思っている。いつもと違う格好をして、恥ずかしかったけれどさそれすら気にならないほど、この時間を楽しんでいる。
でも時々、ふと思う。
ーーいいのかな。こんなに楽しくて、いいのかな。
いまが楽しすぎると、なんだか幸せな夢を見ているみたいで、不安になってしまう。いつか覚める夢。夢から覚めたら、あっという間に、またあの頃に戻るんじゃないかって。
でもーー、
「深月、どうしたのー?」
杏奈の呼びかけに、私はううん、と笑って答えた。
でも、今日はお祭りだから。いつもと違うから。きらきらと眩しいくらい光に満ちたこの時間を素直に楽しもう。そう思えたのだ。