ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「こらっ、左手を動かすな。」
ナオフミさんがすぐそこに居ることを知り、手術中とはいえどもじっとしていられず、つい左手を引っ込めてしまった私はすぐさま執刀医に左腕を押さえられ注意された。
「俺は呼んでねーよ。ただそこで立っていたいだけだろ。ほっとけ。」
『えっ、でも日詠先生、すぐそこに・・』
「いいから。」
いいからって・・・
そのままほっておくってこと?
多分、心配で来てくれているのに・・
『よくないですよ!!!』
左手を預けているからって、でももうガマンできない
“ほっとけ”なんてオレ様全開なこの人を
止められるのは私だけなんだから
「なんでかな、お嬢さん♪」
ここにきていきなりオトボケな声で私に問いかけてきた執刀医森村医師。
なんだか、からかわれてるみたいじゃない
本当に頭にキタ
言ってやる
控え目なんかじゃなく
スバっと、バッサリ斬ってやるんだから!
『なんでかなって、ほっとけとか言うからッ。日詠先生だって・・・お忙しい中をかいくぐって足を運んで下さっていると思うのに・・・そういう無神経なトコロ、ホント許せない!』
「ふーん。お嬢さんは手術室っていう一歩間違えば自分に危害が加わってしまうかもしれない状況でも、日詠先生にここに入ってきて欲しいあまりにオレにはそういう暴言はいちゃうんだな。キミさ、オレの前じゃものスゴクわかりやすいよな。」
『わかりやすいって、どういうコトですか?!』
クスッ!
手術中にも関わらず、鼻先で軽く笑った森村医師。
「なんでもねーよ。どうせ、時機に日詠さんの携帯に産科からの緊急コールが入るだろうからここに入るまでもないってコト。松浦クン、リハ室の戻る時にまだ日詠さんがそのまま立ってたら俺に声かけて。」
「わかりました。じゃあ、高梨さん、後でまた伺います。」
爽やかな印象を抱いていた松浦先生はなぜか怪しげに目を細めながら私に声をかけ手術室のドアから出て行ってしまった。
ピピピッ、ピピピッ・・
そしてそのドアの向こう側のほうから聞こえてきた携帯電話の着信音らしき音。
その音は2コールですぐに切れてしまい、ドアから出て行った松浦先生は私達がいる手術室に再び声をかけることはなかった。