ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



「そうよ。どういうつもり?日詠先生。」

「も~う、呆れちゃったわよ。」



彼女達の溜息混じりのそれらの言葉。
それが聞こえてきた直後、何を言われても構わないと腹が据わっていた俺が握っていた伶菜の手。
その手の力が緩んだ。


おそらく、俺の手を離して
3日間の時間も妊婦さんのために使って欲しい
そう言い出しそうだ


でも、それじゃダメなんだ


伶菜の想いをちゃんと聴けていない
だから
彼女のための、そして、俺のための時間を
どうしても手にしたい


そう思っているのに言葉が出てこない
普段、あまり自分の想いを口にしないから
これが俺の精一杯だ



「スミマセン、俺・・・それでも」


やっぱり患者を支えるべき人間である医師は
いつ、どんな時でも医師であるべきなのか?


難しいな
プライベートも仕事も
どちらも上手くやっていくのは・・・


やっぱり
自分の置かれている立場にきちんと対処した上で
伶菜とじっくり向き合うことは
いつまでたっても難しいのか?




「あの・・・」

「日詠先生!!!3日なんてセコイこと言ってないで、1週間ぐらい休暇とっちゃえば?彼女、しっかりつかまえなきゃいけないんでしょ?」




俺がどうしたらいいのか戸惑っているうちに伶菜が何かを言いかけたが、
それを遮るように、ひとりの妊婦が俺に休暇延長の進言をしてくれた。


その後も他の妊婦から、結婚準備はふたりでやらないと、とか、休暇をとるために若手の先生に情報伝達していたんでしょ?というありがたい説教や質問をされた。


産科医師としての立場よりも
ひとりの男として、伶菜のためだけの時間を得ようとしている今
俺はおそらく医師失格だろう

でも、ずっとここで産科医師として従事してきてよかった
そう思わずにはいられなかった。




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