ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
私の右隣から突如聞こえてきた呟き。
咄嗟にその声の方に振り向くと
ナオフミさんが味噌汁の入ったお椀の中を左手に持ったままじっと見つめていた。
味噌汁の香りをゆっくりと吸い込みながら。
「・・・名古屋じゃ、合わせ味噌の味噌汁、飲まないから、、な。」
『・・・・合わせ・・』
味噌汁なの?
「・・・・・学会とかでいろんな地方へ行くんだけど、名古屋以外で食べる味噌汁はどうも美味しく思えなくて・・・赤味噌じゃないし」
『赤味噌じゃ・・・ない・・・』
「でも、この味噌汁、合わせ味噌なんだけど、これだけは」
合わせ味噌なんだけど?
これだけは・・・・・?
「美味いんだ。」
きっとコレなんだ
ナオフミさんのお袋の味
"合わせ味噌で作ったお味噌汁"
漂ってくる香りから想像すると
いりこで丁寧にだしをとってある早紀さんの作ったお味噌汁
お味噌汁なんてどの家庭にもあるのに
これだけは美味いなんて
きっと最高の褒め言葉だと思う
「早紀がね、8才のナオフミをウチに連れて来た時にまずやったことは・・いりこだしをとることだったんだよ。」
『・・・日詠先生?』
「お母さんになるには美味しい味噌汁を作れなきゃいけないと思ったらしくてね。」
『・・・早紀さん・・・』
ナオフミさんが心配するといけないからダメだとわかっていながらも
耳元で囁かれた東京の日詠先生の言葉のせいでやっぱり涙がこぼれてしまった。
「でも、その頃、東京のスーパーには赤味噌が置いてなくてね・・・仕方なく合わせ味噌で作ったんだ。」
『・・・合わせ味噌で・・・ナオフミさんは・・?』
「尚史はお代わりしてた。今みたいにね。」
日詠先生はおもむろにナオフミさんのほうへ顔を向けた。
私も即座に彼のほうへ向いた。
そこには
照れくさそうにほんの小さく微笑みながら汁椀を早紀さんへ差し出すナオフミさんの姿があった。
それを見た私はまたもや涙がこぼれてしまった。
「ほら、泣くなって。まだ泣くところじゃない・・・から。」
ナオフミさんは苦笑いしながらすぐさま私の頬を伝った涙を親指で拭ってくれた。