ストロベリーキャンドル
*
飛行機のチケットも無事に取れて、
私たちは帰国した。
すぐに総合病院へ転院して精密検査が行われたけれど、
記憶喪失ってこと以外に異常は見つからず、
ひとまず仁は家に帰ることになった。
「何であんたも一緒の家に帰るの?」
「うっ……私も一緒に住んでるのよ」
「だからさぁ、あんた一体誰だよ」
さっきから悪態をついてくる仁。
こんな仁に初めて遭遇したから、戸惑いを隠せない。
姿かたちは仁そのものなのに、二重人格というか、
別人が乗り移ったみたい。
仁はしばらく自室にこもっていた。
静かに時だけが過ぎていく。
私はとにかく、ご飯の準備をして仁が出てくるのを待った。
ご飯が出来上がって、しばらくすると、
仁が自室から出てきた。
お腹が空いたのか、お腹に手を当てている。
冷蔵庫を開けてキッチンをウロウロする。
そして食卓に並んだ料理を見て、口を開いた。
「それ、あんたが作ったの?」
「う、うん。そうだよ」
「俺の?」
「勿論」
座って、と促すと、仁はゆっくりと椅子に座った。
冷蔵庫がなんなのかとか、箸の持ち方とか、
そういうのは覚えているみたいで、
仁はおもむろに箸を持って料理をつつき始めた。
黙ってもぐもぐ口を動かす。
ぐっと飲み込むと、私をちらりと見た。
「う、うまい……よ」
照れながら言う仁に、付き合い立ての頃を思い出す。
『美味しいよ、奏音』と言って頭を撫でてくれた仁は、
照れたりはせずにしれっと言ってのけたけれど、
今いる仁は顔を赤くして一生懸命言ってくれているのが伝わる。
不謹慎だけれど、嬉しいと思った。