ストロベリーキャンドル






飛行機のチケットも無事に取れて、
私たちは帰国した。


すぐに総合病院へ転院して精密検査が行われたけれど、
記憶喪失ってこと以外に異常は見つからず、
ひとまず仁は家に帰ることになった。


「何であんたも一緒の家に帰るの?」


「うっ……私も一緒に住んでるのよ」


「だからさぁ、あんた一体誰だよ」


さっきから悪態をついてくる仁。
こんな仁に初めて遭遇したから、戸惑いを隠せない。


姿かたちは仁そのものなのに、二重人格というか、
別人が乗り移ったみたい。




仁はしばらく自室にこもっていた。


静かに時だけが過ぎていく。


私はとにかく、ご飯の準備をして仁が出てくるのを待った。


ご飯が出来上がって、しばらくすると、
仁が自室から出てきた。


お腹が空いたのか、お腹に手を当てている。


冷蔵庫を開けてキッチンをウロウロする。
そして食卓に並んだ料理を見て、口を開いた。


「それ、あんたが作ったの?」


「う、うん。そうだよ」


「俺の?」


「勿論」


座って、と促すと、仁はゆっくりと椅子に座った。


冷蔵庫がなんなのかとか、箸の持ち方とか、
そういうのは覚えているみたいで、
仁はおもむろに箸を持って料理をつつき始めた。


黙ってもぐもぐ口を動かす。
ぐっと飲み込むと、私をちらりと見た。


「う、うまい……よ」


照れながら言う仁に、付き合い立ての頃を思い出す。


『美味しいよ、奏音』と言って頭を撫でてくれた仁は、
照れたりはせずにしれっと言ってのけたけれど、
今いる仁は顔を赤くして一生懸命言ってくれているのが伝わる。


不謹慎だけれど、嬉しいと思った。


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