ストロベリーキャンドル
ご飯を食べ終えて、仁と向かい合ってソファに座る。
仁は私を嫌そうに見つめたけれど、私は一度深呼吸をして、
真面目に仁を見据えた。
「じゃあ、自分の覚えていることを話して」
「何も。自分の名前すら分かんなかった。
何をしていたのかも全部。
部屋にあるものを眺めていたら大体は分かったけどね」
記憶がなくなっても、さすがは仁。
自分の今の状況を卒なく整理することが出来るなんて驚きだった。
いつだって冷静。
そこは変わらない。私の大好きな仁だ。
「あなたは、神崎仁。歳は29歳。血液型はB型。
東京生まれで、ご両親はお母さまの生まれ故郷の秋田に住んでいるわ。
あなたは大宮物産に勤めていて、営業の仕事をしているの」
「で、あんたは何なの?何で一緒にいるわけ?」
「……私とあなたは、6月に結婚したのよ。
私は一ノ瀬奏音。あなたのパートナーよ」
「俺が、結婚?……あんたと?」
あからさまに嫌そうな顔をする。
そうされるととても傷付くのだけれど。
でも無理もないのよね。記憶がないんだもの。
それなのにいきなり、あなたは結婚しているんだって
見ず知らずの女の人が一緒にいるなんて、
受け入れがたいもの。
私だって混乱する。
訝しげに私を見つめる仁を見て、
つい重めのため息が出そうになる。
それを堪えて、私は張り付けたような笑顔を作って見せた。