ストロベリーキャンドル



ご飯を食べ終えて、仁と向かい合ってソファに座る。
仁は私を嫌そうに見つめたけれど、私は一度深呼吸をして、
真面目に仁を見据えた。


「じゃあ、自分の覚えていることを話して」


「何も。自分の名前すら分かんなかった。
 何をしていたのかも全部。
 部屋にあるものを眺めていたら大体は分かったけどね」


記憶がなくなっても、さすがは仁。
自分の今の状況を卒なく整理することが出来るなんて驚きだった。


いつだって冷静。
そこは変わらない。私の大好きな仁だ。


「あなたは、神崎仁。歳は29歳。血液型はB型。
 東京生まれで、ご両親はお母さまの生まれ故郷の秋田に住んでいるわ。
 あなたは大宮物産に勤めていて、営業の仕事をしているの」


「で、あんたは何なの?何で一緒にいるわけ?」


「……私とあなたは、6月に結婚したのよ。
 私は一ノ瀬奏音。あなたのパートナーよ」


「俺が、結婚?……あんたと?」


あからさまに嫌そうな顔をする。
そうされるととても傷付くのだけれど。
でも無理もないのよね。記憶がないんだもの。


それなのにいきなり、あなたは結婚しているんだって
見ず知らずの女の人が一緒にいるなんて、
受け入れがたいもの。
私だって混乱する。


訝しげに私を見つめる仁を見て、
つい重めのため息が出そうになる。
それを堪えて、私は張り付けたような笑顔を作って見せた。


< 70 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop