ストロベリーキャンドル



私と、仁の思い出のオムライス。
「モリノ」の本格的なオムライスは私には作れないけれど、
これであの日々を思い出してくれるといいな。


オムライスは作るのが苦手だった。
お店のやつみたいに、ふわっとした卵で包めないから。


いつもぐちゃぐちゃになってしまう。
よれよれの卵を上に乗せただけの不格好なオムライスを
仁に食べさせたくなかったから。


でも、もうそんなこと言ってられない。
大好きなオムライスを食べれば、
少しは思い出してくれるはず。


失敗して、作り直して、また失敗。
それを繰り返して、なんとか一番納得のいくオムライスが作れた頃、
仁が部屋から出てきた。


スーツを着てびしっとしている。会社に行くのかな?


「仁、お、おはよう」


「…………」


やっぱり何も喋ってくれない。
肩を落として唇を噛みしめる。


出来上がったオムライスを持って、食卓に並べた。


「今日はオムライスにしたの。一緒に食べよう」


「何で俺が食べなきゃならないんだよ。
 家族ごっこがやりたいなら、他でやりな」


「でも、せっかく作ったんだし、食べて」


オムライスの皿を持って、仁の前に差し出す。
仁はそれを見つめた。


「いらないって言ってるだろそんなの。一人で食べれば」


私を押しのけた仁。
その拍子に持っていたお皿が床に落ちて、
オムライスが散らばった。


床に膝をついてそれらをかき集めると、
仁はため息をついて歩き出した。


「待って!会社、行くの?」


「それが何?」


「まだ安静にしていたほうが……」


「そんなの、俺が決めることじゃん」


冷たく言い放ち、部屋を出て行った。
無情にも閉められたドアを見つめる。


どうして、こうなってしまうのかな。


これは、不倫をしていた天罰なの?
神様は、私に幸せな日々を与えることは
御許しになれないのかしら。


「どうして……っ?」


呟いた言葉は、空気に混じって消える。


床に散らばったオムライスを眺めて、ポロポロと涙を零した。


あんなに幸せだったのに、その幸せが音を立てて崩れていく。
私の手の中には仁だけが残っていたはずなのに、
その仁さえも零れていってしまうの?


仁がいないと、私……。





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