【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「起きてっ、こんなところで眠ったらダメだよ! どこか具合が悪いの? 私の声が聞こえる!?」

「うう……は……が、へ……」


 男性は相当体調が優れないのだろう。絞り出すような途切れ途切れの声で、なにかを伝えてくる。


「ごめんなさい、聞き取れなかった。もう一度、言って?」

「腹が減って、動けな……い」


 聞き間違いだろうか。こんな、いかにも〝戦いの果てに力尽きました〟みたいな状態で倒れておきながら、空腹で動けないとか。

 私は、冗談でしょう?と思いつつも、確認のためにロキを振り向く。

 すると、私の疑問を察してくれたのか、肯定するように首を縦に動かした。

 行き倒れてただけだったんだ、紛らわしい!

 どっと疲労感に襲われる。夢なら早く覚めてほしい。

 両手を合わせて切に願っていたとき、背後に気配を感じた。

 なんだろう、この寒気。

 恐る恐る振り返ると、そこには――。


「やっと見つけた」


 先ほど遭遇した不審者が、ゆらりと陽炎のように上体を揺らしながら立っていた。「ひいっ」
 悲鳴をあげて後ずさる私に、碧眼の不審者は顔をしかめる。


「急に逃げるなんて、酷いじゃないか」

「それはあんたが紳士らしからぬ格好をしているからだよ! 雪が怖がるのも無理ないわ」


 ロキが耳を立てて目を吊り上げる。対する白衣の男性は叱られたからなのか、はたまた喋るウサギを見たショックからか、真っ青な顔でガタガタと震えだした。


「お、俺は……こ、こ、こっ、国境線のほうにきみたちが走っていったから、ひっ、ひひ、引き留めようとしただけだ」


 激しくどもりながら、挙動不審の彼は私たちを追いかけてきた理由を口にする。


「あんた、人を幽霊みたいな目で見るんじゃないよ。私はロキ、ただのウサギよ。ちょっと喋っただけでそんなに怖がって、男なのに情けないねえ」


 ロキ、ごめん。私もまだ怖いです。普通のウサギは喋らないし……。


「そ、それで国境線になんで行っちゃいけないの?」


 話を元に戻すと、男性は私をちらっと見て、すぐに視線を逸らす。嫌なものでも見てしまった、みたいな態度が感じ悪い。

 しばらくその行為を繰り返した男性は白衣の胸元辺りを握りしめながら、やっと口を開く。


「こっ、国境線……今は戦場だから」

「もしかして、それを教えるために追いかけて来たんですか?」


 それなのに不審者扱いして、申し訳ない。謝ろうと思った矢先、碧眼の男性がずれてもいない眼鏡の位置をしきりに直しだす。


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