【最新版】異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「あ、ああ、あそこで見て見ぬ振りしたら、俺が見殺しにしたみたいだろ」
あ、そうですか。
善意ではなく、自分の罪悪感を払拭するための行動だったようだ。
「そこは助けに来た、くらい言いなよ。男だろう?」
短い手を腰に当てて、ロキが咎める。そのときだった、どこからかか細い声が聞こえてくる。
「俺は空腹のあまり、夢を見ているのだろうか……。ウサギが人の言葉を話しているように見えるんだが……」
軍服の男性だ。いつの間に覚醒したのか、カーネリアンの瞳でロキをぼんやりと眺めている。
彼の気持ちはわかる。喋るウサギなんて、アニメか漫画か、フィクションの世界でしか見たことがない。おまけに私は、この異世界すら夢の産物だと思っている。
喋るウサギに挙動不審な白衣の不審者、空腹で行き倒れた鎧の男。次はなにが出てくるんだろう。こんな夢を見る自分の想像力が怖い。
私はぐったりしながらも、目に生気を取り戻した男性の腕に手を添える。
「大丈夫。私もあなたと同じものが見えてるし、聞こえてます。それより、あなたはどうしてここに?」
「名乗り遅れて……すまない。俺はバルド・ローレンツ。パンターニュ王国騎士団の騎士団長だ」
パンターニュ王国とか、騎士団とか、聞きなれないファンタジーな名称が次々と飛び出してくる。
「隣国のベルテンとこの国境線で戦争中なんだが……って、そうだ。娘、雪といったか。なぜここにいる。危険な場所と承知の上での行動か?」
自分の置かれた状況を思い出したからか、先ほどよりもはっきりとした意識で彼は厳しい眼差しを向けてくる。
「それは私も知りたいっていうか、どうしてここにいるのかわからないんです」
見るからに西洋人のような名前と容姿をした彼らと、言葉が通じるのも謎だ。
英語がからっきしの私は生まれてこの方、日本語しか話せない。
「なんにせよ、ここにいるのは危険だ。雪、それからロキとそこの――白衣の男」
バルドと名乗った男性は、さらっとウサギであるロキを受け入れている。その順応性の高さに驚きつつも、私はまだ名前も知らない白衣の男性に視線を移した。
全員の関心を一身に集めた彼は萎縮しきった様子で歯をガチガチと鳴らす。加えて視界を遮るように、目にかかるほど長い前髪を押さえながら、おずおずと名乗る。
「俺、俺は……エドガーです」
「ならばエドガー、手を貸してくれ。俺を騎士団の駐屯地に連れて行ってほしい。それから、お前たちもついて来い。ここにいては危険だからな、保護する」
こうして、森で出会ったなんの面識もない私たちはバルドさんが身を寄せているという騎士団の駐屯地に行くことになった。
駐屯地は森の開けた場所にあった。
いくつか幕舎が設営されていて、騎士たちは焚き火の前に座り込み、身を寄せ合うように休息をとっている。
「バルド団長……バルド団長ですか!」
駐屯地に足を踏み入れた途端、私たちの周りに騎士が集まった。
エドガーさんは、彼らにとって大事な団長の身柄を騎士たちに預けると一歩下がる。私はロキを抱えたまま、その隣に並んだ。
あ、そうですか。
善意ではなく、自分の罪悪感を払拭するための行動だったようだ。
「そこは助けに来た、くらい言いなよ。男だろう?」
短い手を腰に当てて、ロキが咎める。そのときだった、どこからかか細い声が聞こえてくる。
「俺は空腹のあまり、夢を見ているのだろうか……。ウサギが人の言葉を話しているように見えるんだが……」
軍服の男性だ。いつの間に覚醒したのか、カーネリアンの瞳でロキをぼんやりと眺めている。
彼の気持ちはわかる。喋るウサギなんて、アニメか漫画か、フィクションの世界でしか見たことがない。おまけに私は、この異世界すら夢の産物だと思っている。
喋るウサギに挙動不審な白衣の不審者、空腹で行き倒れた鎧の男。次はなにが出てくるんだろう。こんな夢を見る自分の想像力が怖い。
私はぐったりしながらも、目に生気を取り戻した男性の腕に手を添える。
「大丈夫。私もあなたと同じものが見えてるし、聞こえてます。それより、あなたはどうしてここに?」
「名乗り遅れて……すまない。俺はバルド・ローレンツ。パンターニュ王国騎士団の騎士団長だ」
パンターニュ王国とか、騎士団とか、聞きなれないファンタジーな名称が次々と飛び出してくる。
「隣国のベルテンとこの国境線で戦争中なんだが……って、そうだ。娘、雪といったか。なぜここにいる。危険な場所と承知の上での行動か?」
自分の置かれた状況を思い出したからか、先ほどよりもはっきりとした意識で彼は厳しい眼差しを向けてくる。
「それは私も知りたいっていうか、どうしてここにいるのかわからないんです」
見るからに西洋人のような名前と容姿をした彼らと、言葉が通じるのも謎だ。
英語がからっきしの私は生まれてこの方、日本語しか話せない。
「なんにせよ、ここにいるのは危険だ。雪、それからロキとそこの――白衣の男」
バルドと名乗った男性は、さらっとウサギであるロキを受け入れている。その順応性の高さに驚きつつも、私はまだ名前も知らない白衣の男性に視線を移した。
全員の関心を一身に集めた彼は萎縮しきった様子で歯をガチガチと鳴らす。加えて視界を遮るように、目にかかるほど長い前髪を押さえながら、おずおずと名乗る。
「俺、俺は……エドガーです」
「ならばエドガー、手を貸してくれ。俺を騎士団の駐屯地に連れて行ってほしい。それから、お前たちもついて来い。ここにいては危険だからな、保護する」
こうして、森で出会ったなんの面識もない私たちはバルドさんが身を寄せているという騎士団の駐屯地に行くことになった。
駐屯地は森の開けた場所にあった。
いくつか幕舎が設営されていて、騎士たちは焚き火の前に座り込み、身を寄せ合うように休息をとっている。
「バルド団長……バルド団長ですか!」
駐屯地に足を踏み入れた途端、私たちの周りに騎士が集まった。
エドガーさんは、彼らにとって大事な団長の身柄を騎士たちに預けると一歩下がる。私はロキを抱えたまま、その隣に並んだ。