手招きする闇
23 一年三組教室内
      
 帰りかけていた晴香、理子の姿を見て教室に戻って来る。
 他に人影は無し。
 
理子「立花さん、出て来て下さい。真佐子さんが来てくれましたよ」
          
 彼女の呼びかけに緊張した面持ちになる真佐子。
 そこへ立花が姿を現す。
  
理子「真佐子さん、立花さんは今、あなたの目の前にいらっしゃいます」
       
  真佐子、視線を上に向ける。
 驚く立花。
 彼女の目は真っ直ぐに彼の目を見つめていた。
  
幽霊「真佐子、君僕の姿が見えるのか?」
  
 その問いには答えない真佐子。
  
理子「真佐子さん、立花さんが、自分の姿が見えるのかって聞いてます」
真佐子「いいえ。見えないわ」
理子「でも、あなたは真っ直ぐに彼の目を見てますよ」
真佐子「今でも覚えているの。優さんがどの位の身長だったか」
       
 教室内にいた仲間全員が驚いた。
 もう何十年も経っているのに、それほど鮮明に覚えておけるものだろうかと。
  
幽霊「真佐子、来てくれてありがとう」
真佐子「理子さん、私の声って、彼に聞こえているのかしら?」
       
 理子、立花の顔を見る。
 大きく頷く彼。
  
理子「はい。聞こえてます」
 
真佐子「優さん、今日までここに来る事が出来ずにごめんなさい。あなたの死は、本当に辛かった。私も死んでしまおうかと思った程よ。そうすれば、天国にいるあなたに会えると思ったから。でも、卒業して就職した会社で、今の主人と出会って、壊れかけた私の心を少しずつ癒してくれたの。主人と出会わなかったら、もうここにはいなかったと思う」
幽霊「真佐子、君に辛い思いをさせてごめん。いい人に巡り合えて、幸せに暮らしている君の姿を見られて、僕の心にも温かいものが流れ込んで来たよ。僕はこれから天国に旅立つ。もうこうして話す事は出来なくなるけど、君の幸せを見守ってるよ」

 理子、彼の言葉を伝える。
 理子の目から、涙がこぼれる。
 俊樹、彼女の傍でその涙をぬぐってやる。
 
幽霊「それじゃ、もう行くよ」
理子「真佐子さん、もう行くそうです」
真佐子「待って。もう一言伝えたいの。優さん、私あなたと出会えて本当に幸せだった。ずっと私の事を思ってくれてありがとう」
幽霊「真佐子、愛してるよ」
真佐子「私もよ」
幽霊「えっ? 聞こえたの?」
真佐子「・・・」
幽霊「違うのか。でも、ありがとうそれじゃ行くよ」

 彼は消えるように天に昇って行った。

理子「行かれました」
真佐子「そうですか」
       
 真佐子、床に花束を置く。
 
理子「あの、真佐子さんひとつ聞いてもいいですか?」
真佐子「何かしら?」
理子「さっき、立花さんが愛してるっておっしゃったの、聞こえたんですか?」
真佐子「彼、やっぱりそう言ってくれたのね。声は聞こえなかったけど、何だかそんな気がしたの」
理子「それで、あんな返事を?」
真佐子「ええ。良かったわ。噛み合ってて」
       
 にっこりほほ笑む真佐子。
  
理子「聞こえていたとしか思えない、絶妙なタイミングでしたよ」
真佐子「そう。良かった。理子さん、本当にありがとう。優さんともう一度会う機会を与えてくれて」
理子「いえ、私はただ連絡を差し上げただけです。真佐子さんが来てくれて、本当に良かった」
真佐子「これからは、もっと幸せに生きていけそうよ」
理子「立花さんの分まで長生きして下さいね」
真佐子「ありがとう」
       
 教室を出て行く真佐子を見送る五人。
 怖がりの彩萌さえも、今は幸せそうに微笑んでいる。
  
俊樹「理子、帰ろ」
理子「うん」
      
 俊樹が差し出す手を握る理子。
 
洋介「彩萌、俺達も帰ろうか」
彩萌「うん、帰ろっ」
      
 四人が教室を去り、哲司と晴香が残される。 

哲司「晴香ちゃん、俺達も一緒に帰る?」
晴香「はい。それから新開さん、もし良かったら私と付き合ってもらえませんか?」
哲司「マジ?」
晴香「ダメでしょうか?」
哲司「ううん、そんな事ないよ」
晴香「それじゃ、はい」
      
 晴香、手を伸ばす。その手を握る哲司。
  
哲司「それじゃ、行こうか」
晴香「はい」
哲司「よーし、俺にもとうとう春が来たぞーーー」
      
 ダッシュに近い速さで走る哲司。

晴香「新開さん、速すぎですーーー」
       
 二人は、先に出た二組を追い抜くと、元気に街に飛び出して行った。

 <完>


















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