美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~

同時に失恋

「あ、あのときのトライアル男子が穂積部長だったと言うのですか?」

「トライアル男子・・・だと?失礼な。俺はお試し商品に成り下がった覚えはない。まあ、瑠花にならお試しされるのもありだけどな」

「ぶっ・・・!」

トライアル男子とは、瑠花が照れ隠しでツンツンデレ甘王子を他人と話すときの呼び名だった。

考えてみれば確かにずいぶんな呼び名だ。

母や友人は文字通り゛トライアル商品をくれた男子大学生゛

と受け取って話を聞いてくれていたが、聞きようによっては、瑠花が大変なビッチだと思われてもおかしくはないスラングともとれる。

瑠花は急に恥ずかしくなって顔を赤らめた。

「まあ、照れちゃって。ラブちゃんは可愛いのね」

ひやかす湯川に、瑠花は益々赤くなっていく。

瑠花は居たたまれなくなって、そっと朔也を見上げると、驚くことに無表情で有名な朔也が、呆然といった表情で瑠花を見つめていた。

「ぶ、部長?」

「・・・朔也だ」

「・・・朔也さん?どうしました・・・?」

見たこともない朔也の呆けた表情に、混乱した瑠花は彼に乞われるままに゛朔也゛とファーストネームで呼んでいた。

「か、(可愛すぎ)」

「か?」

キョトンと首をかしげる瑠花に対し、朔也はそれ以上言葉を紡ぐことはなく、徐に瑠花を抱き締め髪に唇を寄せた。

「ちょっと!朔也くん、他のお客様が見てるんだから、ここでは自重しなさいよ。確かに照れてる瑠花ちゃんの可愛さは破壊神並の威力だったけど」

『やん、目の保養』

『CMの撮影か何かかな?』

というお客の声が聞こえたことは、朔也が調子に乗る可能性があるため湯川は黙っていることにした。

そして嫌がる朔也を宥めすかして、混乱する瑠花から朔也を引き剥がしにかかった。

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