初恋エモ
#5 不透明エモ

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「あ」「あ」


トイレの洗面所で手を洗っていると、自分の声がよく知っている声に重なった。


「ほ、穂波さん! 久しぶりだね!」


鏡越しに見えたのは、あの穂波さんだった。

去年よりメイクが薄くなっていて、元の顔の可愛らしさが引き立っている。


「久しぶりって……ライブたまに行ってるけど」

「そうだよね! ありがとう!」

「別に間宮さんを見に行ってるわけじゃないし」


去年のあれこれを思い出し、少しだけビビったけれど。

笑顔を直接向けると、とげとげしい口調ながらも私と会話をしてくれた。


去年もこれくらい私が心を開けていれば、もっと仲良くなれたのかもしれない。


じゃあまた、と言って、教室に戻ろうとしたら。


「あ、投票しといたから。クノさんにも言っといて」


手ぐしで髪型を整えながら、彼女はそう口にした。


「本当? ありがとう!」

「だからクノさんのためだってば。後ろ並んでるし早く行きなよ」


入学当初は面白くないのに笑って、クソみたいに愛想振りまいて、どんどん自分をすり減らしていた。

今は違う。

穂波さんとコミュニケーションが取れるようになったし、クラスの友達とも心から笑えている。


クノさんと出会って、バンドを始めてから、他人と自然に接することができるようになった。

彼と本心でぶつかりあって、新しい世界を経験して、壁にぶつかって、乗り越えて……を繰り返したから、だろうか。


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