初恋エモ
「…………」
帰りの電車では、クノさんはずっと無言。
私も何となく話しかけないでおいた。
彼の感情があふれたのは、地元に戻り川沿いの道を進んだ時だった。
突然自転車を止め、ギターを放り出し土手を下る。
そのまま真っ暗な川に向かって叫び出した。
「あんな売れ線に成り下がったバンドのどこがいいんじゃクソが!」
彼の悔しさや痛みが、黒い水の流れに溶け込んでいく。
雑草を足でかき分け、私も彼のもとへ向かった。
クノさんはしゃがみこんだ後、もう一発叫ぶ。
「あー! ちくしょー! まじで売れてぇ!」
そうだ。
透明ガールがスクリーミンズ以上に結果を出していれば、葉山さんは私たちを選んだのかもしれない。
バンドの活動期間を比較すると、とうてい無理な話だ。
だけど、可能性はゼロじゃない。デビューして一気に売れるバンドだっている。
「クノさん……」
「たくさんライブも決まってるのに、コンテストも続いてるのに、これからどうればいいんだよ」
頭をかかえながら、クノさんはぶつぶつ言葉を続ける。
今まで葉山さんを引き止める気は見せなかったものの、彼は彼なりに悩んでいたらしい。
思いのたけを吐き出してもらった方がいいと思い、私は黙っていたが。
「あ~透明ガールもいったん解散すっか。ドラムいねーし、一から新しいバンドとしてやり直すか?」
「それは絶っっ対だめです!!」
クノさん並みの大声で、彼の言葉を止めた。
彼は肩をびくつかせた後、弱々しい目で振り返り、私を見つめた。
かすかな街灯な光が、仁王立ちをしている私の影を作り出し、クノさんを包みこむ。
私はスマホのある画面をクノさんへ向けた。
「だって、順位めちゃくちゃ上がってるから!」
フェス出場権をかけたコンテストの二次審査。
透明ガールは投票数を急激に上げ、ベスト30に食い込んでいた。
間もなく、投票締め切りを迎える。