初恋エモ
私は胸をじーんとさせていたが、彼の一言により現実に戻された。
「ミハラのドラムじゃ、ライブ審査で戦えねーよ」
んぐ。一気に涙腺が引き締まる。
ライブ審査まであと1ヶ月。
そんな短い期間で、私たちの一年半をミハラさんに追いついてもらうのは酷だ。
だけど――
『だから俺はあいつとバンドやるのダルい。去年みたいに遊びでやるのはいいけど』
昔、ミハラさんはそう言っていた。
なのに今になって、どうして透明ガールでドラムを叩きたくなったんだろう。
一つ分かるのは……
『何でも上手くやってきたけど、思い返せば何も成し遂げてなかった。そんな自分じゃダメだってずっと思ってた』
彼自身の中で何らかの意識が大きくなったこと。
クノさんはミハラさんのことを器用貧乏と評している。
ミハラさん自身はそんな自分が嫌で、変えたいと思っているのでは?
自分自身と戦おうとしているのでは?
「葉山さん、その日だけサポートで叩いてくんねーかな」
クノさんはそうぼやき、スマホを操作し始めた。
もしかして葉山さんに連絡しようとしてる?
「ちょっと待って!」
慌ててスマホを没収した。「なんだよ」とにらまれる。
ミハラさんはいつも透明ガールを優しく見守ってくれた。
私が悩んだ時は話を聞いてくれて、落ち込んだ時は励ましてくれた。
今度は、私がミハラさん自身の心の変化に寄り添う番だ。
声を震わせながら、クノさんに訴えた。
「賭けてみませんか? ミハラさんに」