初恋エモ





私からの提案にクノさんは首を縦にも横にも振らなかった。

ただ、葉山さんはじめ他のドラマーに声はかけていない。


一応はミハラさんで様子を見る、ということだろうか。


とはいえ、クノさんにバシッと嫌味を言われたミハラさん。

もし心が折れてしまっていたら、どうしよう。


その心配は無用だった。


「ねぇ、あれ何してんの?」


翠さんは眉間にしわを寄せ、階段の先を指さす。


首をかしげてから、恐る恐る踊り場まで足を進めると……。

ボロい椅子に座り、左右の手足をバラバラに動かしている人影が!


「わ……っ!」


声が出そうになり慌てて両手で口をふさぐ。


そこには、見えないドラムセットを演奏するミハラさんがいた。

イヤホンを耳に入れ集中しているせいか、私が近づいたことに気がついていないようだ。


足音を立てないよう階段を下り、翠さんをこの場所から遠ざけた。


「邪魔しちゃだめなので、別のとこでお昼食べましょう」

「ええ~? どういうこと~?」


ミハラさんはきっと、大丈夫だ。


しかし、安心したのも束の間。

今までギリギリで抑え込んでいた問題が、私に襲い掛かろうとしていた。

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