初恋エモ
☆
私からの提案にクノさんは首を縦にも横にも振らなかった。
ただ、葉山さんはじめ他のドラマーに声はかけていない。
一応はミハラさんで様子を見る、ということだろうか。
とはいえ、クノさんにバシッと嫌味を言われたミハラさん。
もし心が折れてしまっていたら、どうしよう。
その心配は無用だった。
「ねぇ、あれ何してんの?」
翠さんは眉間にしわを寄せ、階段の先を指さす。
首をかしげてから、恐る恐る踊り場まで足を進めると……。
ボロい椅子に座り、左右の手足をバラバラに動かしている人影が!
「わ……っ!」
声が出そうになり慌てて両手で口をふさぐ。
そこには、見えないドラムセットを演奏するミハラさんがいた。
イヤホンを耳に入れ集中しているせいか、私が近づいたことに気がついていないようだ。
足音を立てないよう階段を下り、翠さんをこの場所から遠ざけた。
「邪魔しちゃだめなので、別のとこでお昼食べましょう」
「ええ~? どういうこと~?」
ミハラさんはきっと、大丈夫だ。
しかし、安心したのも束の間。
今までギリギリで抑え込んでいた問題が、私に襲い掛かろうとしていた。