初恋エモ
#6 犠牲・フライ・アゲイン

1






「美透、どこ行くの?」

「え……ちょっとバンドの用事が」


気がつけば、ライブ審査本番の日。

東京まで出なければならないため、早起きをして、母と真緒が寝ている間に家を出ようとした。

が、母に見つかってしまった。


「もしかして、今日がコンテストの日なの?」


ぎくり。背負ったベースがぐっと重くなる。

急ぐから、と言って、慌てて靴を履きドアを開けた。


「最後なんだから、頑張ってきなさいよ。クノさんにもよろしくね」


ドアが閉まる瞬間、嬉しそうな母の声がした。


母の中では私がバンドをやるのは今日までになっている。

絶対に最後になんかさせない。


ライブ審査は東京のライブハウスで行われる。

駅で待ち合わせをして三人で向かう予定だった。が。


「すみません、遅くなりました。って、クノさんは?」


改札前には、コートにマフラー姿のミハラさんだけ。

しかもスマホ片手に慌てている。


「どうしよう。ラインしてるけど、既読つかない」

「まさか寝坊ですかね……? 見に行きましょうか?」


電車を一本逃しても時間的には大丈夫なため、ミハラさんと二人で彼の家へ行くことに。


「あれ」


しかし、扉には『いない』札がかけられており、鍵もかかっていた。

同じ敷地内にある叔父さんの家にも行ったが、チャイムを鳴らしても誰も出なかった。


「もしかして、どっかですれ違っちゃいましたかね。駅戻りましょうか」


ミハラさんにそう伝えると、彼は考え込んだ顔になる。

そして、「一応、実家の方も見とく?」と首をかしげ言った。


「え。どうして突然……」

「最近もめてるって言ってたし、よく顔出してるみたい」

< 158 / 183 >

この作品をシェア

pagetop