初恋エモ


クノさんの実家は街のはずれに向かって10分のところにある、らしい。


彼の家族については、断片的にしか聞いたことがないものの、

母がクノさんの祖父の情報を聞いて一気に態度を変えたことからも、すごい家系であることはうかがえる。


ドキドキしながら、ミハラさんの後ろをついていく。

住宅街を抜けた先、私が目にしたものは……。


「え、ここですか!?」


背の高い瓦屋根つきの白い塀。顔をのぞかせる立派な松の木。

大きな日本家屋の屋根の重なり。


有名人の豪邸訪問番組ばりのクオリティの建物だった。


入口はどこ?

そう思いながら、道路に面した塀の角を曲がる。


「あ……」


ちょうど門から出てきたクノさんと顔を合わせた。

彼はスポーツ系のナイロンジャケットを羽織り、背中にはギターケース。


「なんでここにいんだよ」


めちゃくちゃ不機嫌な顔をされたけれど、ライブの時の格好をしていたため、安心した。


「遅いから探しに来たんじゃん。早く行かなきゃ!」


ミハラさんはクノさんの機嫌に構わず、腕を振って彼を促す。

クノさんはスマホで時間を確認し、「あー連絡できてなかったわ。ごめん」と言って、走り出した。


二人の後ろを追いつつも、私はクノさんの口元にあったあざが気になっていた。


ローカル線から長距離の快速電車に乗り換え、都会へと向かう。

窓の外には次第に高い建物が増えていく。


三人で座ったボックス席で、クノさんは無言。

ミハラさんはイヤホンをして指でリズムをとっている。


私はつい昨日あがっていたクノさんの新しい曲を聴いていた。


『寂しいなんて感情 捨てようとしたけど
目を閉じたとたん 襲い掛かってくる
感謝してるのは この面倒な心をくれたことだけ』


この曲、もしかして親のことを表しているのだろうか。

窓枠に肘をかけ、外の高層マンションを眺めているクノさんを見てそう思った。


マスクをしているため、あざは見えないけれど。


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