初恋エモ





三月になり、卒業式が終わった後。

私たちはいつものライブハウスへ向かった。


フロアには満員のお客さん。

翠さんや穂波さん、学校の友達、中学時代の友達等、知っている顔はもちろん。

活動していく中で獲得した新たなファンもたくさんいた。


今日が、透明ガールのラストライブ。


みんなの応援があったからこそ、ここまで続けてこれた。

感謝の気持ちを込めて、最後に一発ぶちかますことにした。


「やばいな、久々だし大丈夫かな」


緊張した様子のミハラさんは、スティックを両手に伸びをして、体をほぐしている。

大学受験を終え、あとは結果を待つのみらしい。


「最後だからってソールドするの、マジ腹立つわ」


クノさんはぶつぶつ文句を言いながら、ギターをじゃがじゃが鳴らしている。


「売り切れないよりはいいじゃないですか」

となだめながらも、私も悔しい思いが込み上げてきた。


本当はもっと早い段階で、チケットが売り切れるようなバンドになりたかった。

最大250人入るこのライブハウス。

スクリーミンズのように、まずここを制覇しなければ、全国では戦えない。


ただ――


本気でバンドと向き合ってきたからこそ、たくさん悔しい思いをして。

その度に、彼も彼なりに考えて、変化をし続けてきた。


暗い自省的な曲から、誰かに向けた救いの曲へ。

より多くの人に届くよう、作る曲のバリエーションを増やした。

そして、ライブで表現することにより、透明ガールは新たなファンを獲得していった。


クノさんは、もうすぐこの街を出ていく。

実家とは決別し、叔父さんも海外を拠点に活動することになったため、もう二度と地元には帰らねーよ、と言っていた。


これからも、きっと彼は音楽で成功するために、前に進み続けるのだろう。

私も一年空白はできるけれど、彼の音楽に寄り添って生きていきたい。


「しゃ、やるか」


お客さんのざわざわ声が扉越しに聞こえた。

そろそろ時間だ。


いつも通り三人で円陣を組み、


「透明ガールラスト、ぶちかますぞ!」「おー!」


気合いを入れて、ステージへ向かった。

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