初恋エモ


フロアにはぎゅうぎゅう詰めのお客さん。

みんなが歓声と拍手で私たちを迎え入れてくれた。


三人で息を合わせ、音のかたまりを作り出す。

フロアにたくさんの手があがる。


「透明ガールってバンドです。よろしくお願いします」


クノさんの早口での自己紹介から、ライブはスタート。


久しぶりと言っていたのに、ミハラさんは曲ごとのテンポをがっちり守り、安定したドラムを叩いている。

私も時々目を合わせながら、より体を揺らせるリズムを作り上げる。


笑顔を見せられるとドキッとしちゃうけれど、ライブの高揚感のせいということで。


クノさんは、フロアに視線を向けながら、激しく、時に優しく歌声を響かせる。

間奏では、振り返って私たちと音を合わせながら、感情を揺さぶる音を奏でる。


中学の頃、初めてクノさんを見た時、絶対にこの人は音楽なしでは生きていけない人だと思った。

そんな彼に憧れて、高校へ来た。

彼と接するようになった時は性格悪すぎと思ったけれど、音楽へ向かう姿勢は本物だった。


気性は荒いし、感情も激しく揺れるのに、普段はクールぶっている。そして、時々優しい。


すごく人間味のある人だと思う。

だからこそ、人を惹きつける曲を書き続けられるんだ。


間奏が終わるころ、クノさんと目が合った。

ふっと笑みをこぼす様子を見て、もっと彼の音楽がみんなに伝わるよう、ベースに想いを込めた。


MCなしで次々と曲を進めた。

このまま終わらなきゃいいのにと思えるほど、とにかく楽しかった。


アンコールではクノさんはお客さんへダイブをかまし、私も床に寝っ転がってベースを弾き、ミハラさんは一人でドラムとシンバルを連打し続けた。


暴れすぎてライブハウスの機材が調子悪くなったらしく、最後に店長に説教をくらったけれど。


見たか。これが、透明ガールだ。


そう胸を張れる、解散ライブだった。


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