初恋エモ

4






まだライブの余韻が残っている。

ギターとドラム、ベースの爆音と、声量たっぷりのクノさんの歌。

お客さんの笑顔や、よかったよ、最高だったよ、という嬉しい声。


「あの、レジいいですか?」

「あ、すみません! いらっしゃいませ!」


やばいやばい。今はバイト中。仕事に集中しないと。

家に帰ったら思う存分、ベースを弾こう。


そう思いながら、バイトを終えた。


「ただいまー」


母と真緒が雑談している中、バイト先で買った食材を冷蔵庫に入れる。

二人は外食したらしく、買ってきた惣菜を片手に自分の部屋へ移動した。


ここは、一つの部屋を真緒と分割して使っている狭いスペースだ。

私はすぐ異変に気がついた。


「え? あれ? なんで?」


布団の横にあるはずのものがない。

私が二年前から大切な相棒としている、あれが。


一気に緊張感に襲われた。


別のとこに置いた? そんなわけない。朝は確かにここにあった。

まさか泥棒? いや、荒らされた形跡はないし、母と真緒もいつも通りだ。


小走りでリビングに戻り、母に聞いた。


「お母さん、ベースどこにあるか知らない?」


真緒とテレビを見ている母は、振り返り、こう答えた。


「売ったよ。だってバンド辞めたんでしょ?」


その言葉を聞いた瞬間、

自分の中にあるすべての嫌な感情が、一斉に心に込み上げた。


母は、再び彼と音楽をやるという未来を奪おうとしている。


どうして? 大人しく言うことを聞いているのに。

真緒の世話だってちゃんとやって、バイトもシフトを増やして、これ以上私に何を求めるの?


「……っ!」


気がつくと、私はたくさんの汚い言葉を発していた。

唖然としている母と真緒をよそに、私は家を飛び出した。


制服のまま上着なしで、自転車にまたがったが。


「なんなの? なんで?」


タイヤが上手く回らない。パンクしてしまったらしい。


「ふざけんな! 死ね!」


自転車を蹴り倒してから、私は夜道を走った。


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