初恋エモ


灰色の雲の隙間から、星がぽつりぽつりと見えた。

上着なしであることを伝えると、ライブの時によく来ているスポーツ系のナイロンジャケットを被せられた。


「帰りたくありません」


袖を通しながら彼にそう伝えたが、「アホか」と鼻で笑われた。


「嫌です。ここにいたいです」


負けずにダダをこねると、クノさんは顔をぐっと近づけてきた。


「あのさぁ、誘ってんの? 俺のこと」

「ち、違います!」


急な色気にドキッと心臓が震え、慌てて否定した。

すると、彼はぷっと笑って、私の頭をぽんと撫でる。


「家まで送るから」


そう言われても、尚も動かない私。

彼は笑いをこらえながらも、「ほら」と左手を出す。


もう何が何だか分からない。感情が追い付かない。


その手を握ると、強く引っ張られ、足を進めざるを得なかった。


冷たい風が顔に吹き付ける。

彼の手の温もりのおかげで、寒さはそこまで感じない。


「私、クノさんに引っ張ってもらってばかりです」


手をつないだまま、川沿いの道を私の家に向かって進んだ。

しばらく歩くと、河川敷が広くなり、真っ暗な野球場が見えてくる。


「ちげーよ」


クノさんはその方向を見ながらつぶやいた。


「え……」

「俺が、ずっとお前に支えられてたんだよ」


ぎゅっと手が強く握られ、あたたかな鼓動が胸を刻んだ。


彼と過ごした二年間には、意味があった。

そう実感できて、再び涙がこぼれた。


私は、彼にとって透明じゃない存在になれたんだ。


< 180 / 183 >

この作品をシェア

pagetop