初恋エモ
「よろしくお願いしまーす」
決勝の舞台となる野球場へ行ったが、穂波さんはいなかった。具合が悪くなったとのこと。
「穂波ちゃんってさ、最近美透ちゃんへのあたりきついよね。そんな言いなりにならなくていいと思うよ」
打順を待っている時。
いつもの派手女子二人から心配そうな顔を向けられた。
「え、全然大丈夫。穂波さん体調悪かったから、きつい言い方になっただけじゃないかな」
そう伝えると、彼女らはほっとした表情になった。
もちろん本音は心の奥にぐっと押し込めた。
さっきの自動販売機前での出来事も言わないでおいた。
対戦相手は三年生のクラス。
ピッチャーは相当練習したらしく、ボールが早くて誰も打つことができない。
対する私のクラスも、穂波さんの代理で他の競技に出ていたクラスメイトが一人ピッチャーで入っている。
その子が思いのほか上手くて、お互い点を取れずにいた。
「ほらほら早く打てよー」「うるせー無理だよ!」
試合はゼロ対ゼロのまま、延長戦に突入。
時間は午後5時。
クノさんが私を探してるってミハラさんが言っていたような。
でも、みんな頑張っているし抜けるわけにはいかない。
キーン!
「ええっ!?」
ぼけっと守備についていると、金属音が響いた。
ライト側にいる私の方へボールが飛んでくる。
「間宮さん! 取ってー!」
チームメイトたちがざわつく。応援席にいるクラスメイト達もわーわー騒いでいる。
グローブを空中にかざし、落下点を探る。ここかな。
でも練習でも上手くいかなかったし、絶対に取れない。ボールが頭に当たったらどうしよう。取らなきゃみんなに怒られる。どうしよう。怖い。
いろんな思考が頭をめぐっていったが、気づいたら、すぐ横でボールがバウンドしていた。
思った通り、ダメだった。
走ってきた男子がボールを拾い、ホームへ投げたものの。
あーあ。というため息と、よっしゃー! という声が混ざった。