初恋エモ


三人でクノさんの家へ。

二階の窓には電気がついていた。扉の札も『いる』になっている。


「なんだー。いるじゃん」


入るよー、と翠さんが言い、扉を開けた。


――あ。


目に入ったのは、コードにつながったギター、散らばったノート。

そして、ヘッドホンをつけてパソコンを操作しているクノさんの姿。


彼は私たちに気がついたのか、ヘッドホンを取り後ろを向いた。


「あ? 人数多くね?」


機嫌は悪くないし、口調も普通。


「ちょっとーいるなら連絡してよー」

「ごめん忘れてた。バイト中にいいフレーズ浮かんじゃって」

「もう!」


翠さんはギターをまたいでクノさんに詰め寄る。

私はその様子を見ながら、扉の前で立ち尽くしていたが。


「美透ちゃん、どうしたの?」


ミハラさんに声をかけられ、はっと我に返った。


たぶんクノさんは曲を作っていたんだ。

バイトで疲れているはずなのに、彼は音楽と向き合っていた。

私も今日はベースを弾きたかったはずなのに、三人でいるのが楽しくて頭からそのことがすっかり消えていた。


「まだ作業するのー? あたし帰るよー」


翠さんはクノさんの腕をつかみ、駄々をこねる。


「あーわかったわかった。ちょっと待って」


めんどくさそうにしながらも、クノさんは翠さんの頭をぽんと撫でた。


「じゃあ俺たちは帰ろっか」


ミハラさんにそう耳打ちされた時、


「おい美透、後で曲送るからベース考えとけよ」


翠さんに絡まれているクノさんから言葉が飛んできた。


「はい……」


小さく返事をする。

後ろめたい気持ちが押し寄せてくる。


「じゃ行きましょうか」


そう伝え、軽く笑顔を作ったが、なぜかミハラさんは心配そうな顔で私を見つめていた。

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