初恋エモ


「めちゃくちゃいいじゃないですか! バンドでやりたいです。歌詞はできたんですか?」

「んーまだ書けてない。どんなのにするか迷ってて」


最近クノさんはヒマさえあれば、ギターを触ったり、パソコンでデモ音源を作ったり。

完全に音楽モードの生活になっている。

前みたいに「彼女が来るから」と家から追い出されることも減った。

もちろん翠さんからのグチは増えている。


「これ、ラブソングにしたらいいんじゃないですか? 切ない感じの」

「恥ずっ! 絶対無理」

「えー? ロックバンドの失恋ソングってエモくていいじゃないですか。クノさん恋愛経験豊富そうだしいけますよ! ぜひ赤裸々な感じでお願いします!」

「お前、何でも言えばいいってもんじゃねーぞコラ」


あれ。珍しくクノさんがムキになっている。

ちょっと可愛いかも。


「もしかして、照れてるんですか?」


そうからかってみたものの、


「じゃあ超えろいの書いてやろーか?」


逆に顔を近づけられ、凄まれてしまった。

前髪で目が隠れがちだけど、一瞬で余裕たっぷりな表情に変わった彼にドキッとした。


「いやいやそれはダメだと思います。生意気言ってすみませんでした」


さっきの勢いはどこへやら、慌てて視線を外す。

しかし、クノさんは逃してくれなかった。


「あ。今ので思い出した! お前ライブ中、視線そらしただろ。何回かイラッとしたからな」


ぎくり。


確かにライブ中、曲のキメの部分で、三人でアイコンタクトを取ろうという話になった。

しかし、ニコニコしている葉山さんとは違って、クノさんは気迫のある目をしていたため、にらまれたと思い何度かそらしてしまった。

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