初恋エモ
しかし、次の日。
クノさんの家にベースを取りに行ったところ、彼はいなかった。
先に行ったのかなと思ったが、ライブハウスにもいない。
ラインをしても既読がつかず、電話にも出ない。
具合でも悪くなったのだろうか。どこかで一人倒れていたらどうしよう。
「私駅前とか探してきます。あとはお願いします!」
心配になり、打ち合わせや顔合わせなどイベントのことは葉山さんにお願いし、クノさんを探しに行くことに。
ライブハウスを出た時、「美透ちゃん!」と声をかけられた。
振り返ると、翠さんがいた。
「翠さん、クノさんどこにいるか知りませんか? リハに来なくて」
そう聞くと、気まずそうに彼女は答えた。
「あいつ、リハは出れないって。本番には絶対来る。そう美透ちゃんに伝えてって言われた」
「あ、はい……?」
クノさんが無事なようで安心したが、翠さんは何かを言いたげな様子。
なにかあったんですか? そう聞くと。
「振っちゃった」
翠さんは茶色く光った髪の毛を耳にかけ、そう答えた。
どこかふっきれたような、そんな態度で。
葉山さんにクノさんが無事であることを伝えてから、翠さんとカフェへ向かった。
今日の翠さんはふらふらすることなく、ちゃんと歩道をまっすぐ歩いていた。
「振ったって……冬休み、クノさんと一緒じゃなかったんですか?」
一番安いブレンドコーヒーに砂糖とミルクを入れる。
別れたばかりの翠さんを傷つけないよう、ぐるぐるかき混ぜ気持ちを落ち着かせながら、彼女に尋ねた。
「うん、ほとんど映希の家にいた。一緒に初詣行ったり、買い物付き合ってくれたりもした」
「じゃあ、どうして……?」
甘そうなモカ系の飲み物をすすり、翠さんは答えた。
「だってあいつ、あたしが寝た後にパソコンで曲作ってた。バレないようにヘッドホンつけて、こっそり。毎晩だよ」
大好きな彼女が泊まりにきても、音楽のこともしっかりやる。
クノさんならありえるな、と思った。
しかも翠さんを起こさないよう配慮して作業をしている。彼は彼なりに成長しているのでは?