横顔がスキ 〜とある兄妹の恋の話〜
吉沢の連絡を待ってるうちに
ボクの方に海外の事業所への
移動の話がきたんだ。


以前から希望していた
アメリカ、NYだった。


美子も一緒にと誘ったが
首をたてに振らなかった。

流産のおそれがあったので
飛行機での移動が無理。

「産んだらアメリカ行くわ」

そう言った。


でも結局はこなかった。


美子は仕事を捨てられなかった。

やっとフリーの編集者として
名前も売れてきたとこだったんだ。

家を出て、ひとりで子供を産むと言っていた。
それを吉沢のおばあさんがひきとめた。

ひとりでの生活は家賃だけでも大変。
うちにずっと居ればいい。
おばあさんは言った。

息子以外の男の子供を
身ごもった女なんて
とんだやっかいものだったに違いない。

でもおばあさんは
吉沢より美子を取った。

家に寄りつきもしない息子より
孫を選んだ。

前妻の子供が美子にとてもなついて
一緒にいると三日三晩泣き通しだったのも
残った理由のひとつ。

ひとりでの生活は
老人には耐えられない。
他人でもそばにいてくれる人の方がマシ、
そう言ってたらしい。
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