蛍火に揺れる
「沙絵ちゃんと家族を作れることは、すごく嬉しい。でも…もうすぐ、こんな二人だけで出掛けるなんてできなくなっちゃうんだね」


ほんの少し、笑顔の奥に見えたほんの少しの寂しい気持ち。
それを噛み締めるように、私はノリ君の腕に自分の腕を絡ませる。

「じゃあ今のうちに満喫しないとね」そう言うと、強く腕を引き寄せては「少し名残惜しいな」と、呟くように言っていた。


*****
翌日。

約束通り、私達は最寄り駅の地下鉄の駅に来ていた。

「もう一回確認するけど、気分が悪くなったらすぐ降りるからね」

もう昨日から鬱陶しいぐらい、ノリ君は何度も念を押している。


「わかってるって。耳にタコできそうだよ」

確かに私を気遣っている気持ちからくるのはわかる。
でも…さすがに何度も言われると、多少うんざり気味。はいはいと軽くあしらう感じの私に、ノリ君は不満そうだ。

そして間もなく、電車はホームに到着。
さすがに日曜日の朝。座席が半分と少し埋まるぐらいの混雑具合。

扉が開いて、すぐそこが空席なことに気付く。
優先席…であったが、すぐ降りるにしても何かあったにしても一番迷惑がかからないであろう場所だろうと思い、ありがたく座らせてもらうことにした。
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