蛍火に揺れる
少しは気は紛れるが、もう息を吐くだけで精一杯。なにも考えられない痛さ。
そしてその痛さに耐えること一分、波は徐々に引いていった。


「大丈夫?けっこう痛いよね?」

「結構……なんてもんじゃない…………」


正直、人生で一番の痛みだろう。
腰の上をトラックが通過したような衝撃と痛さ。今はこれが十分おきだが…本当の痛さはこんなもんじゃないらしい。


「でも今夜中にはまだ産まれないから、一回帰ってもらった方が…」
「さすがに沙絵ちゃん置いて帰れないよ」

そしてさっさとジャケットを脱いだノリ君は、財布を持って立ち上がった。

「それに雪降ってるし、せめて止むまで待たせてもらうね。次何分後?それまでに自販機で飲み物買ってくる。お茶か水どっち?」


彼は有無を言わせぬ態度で、私に二択を迫る。

ああ……これは、言っても丸め込まれるな。言っても聞かないモードだ。


私は諦めて、はぁっと大きくため息をつく。


「お茶がいいのと、多分あと八分ぐらいで次くるはず」

そう告げると「了解」とだけ言って、少し早足で病室から出ていった。
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