蛍火に揺れる
だってそれはーあなたが居たからだ。
「確かに大好きだった仕事は辞めた。でも私は、それよりもノリ君と家族を作りたかったの」
ずっと前に、彼が言っていた言葉。
『沙絵ちゃんと一緒に、日本で『帰る場所』を作っていきたいと思っています』
その帰る場所。
そこに私と…彼との子供が居たのなら、どんなに素敵なことなんだろう。
「この子は私達の所を選んでくれた。だから私は、ノリ君とこの子と一緒に『幸せな家族』を作りたいの」
そう言うと、彼は顔を上げた。そして柔らかい笑みを浮かべる。「ありがとう」と言って。
ーその時だった。
「いっっ……」
今までにない衝撃が腰に走り、私はその場に踞る。
「沙絵ちゃん?!大丈夫?!」
何だか感覚がさっきよりもおかしい。お腹の中から今までに感じたことがない圧が迫る。押される…と言うよりも…
「なんか、出そう……」
かろうじてそう声に出すと、彼は慌てた様子で「呼んでくる」と病室から飛び出していった。