蛍火に揺れる
そしてしばらくすると「お待たせしました」と、お湯を張ったバケツが運ばれてきた。
ベットから足を出して、チャポチャポと足を中につける。ひんやりとしていた足に暖かさが広がっていき…全身にまでポカポカした感じが伝わってきている。
心なしか陣痛の波が来ても、痛みが和らいだ感じがしている。
そのままぼーっとしていると、ノリ君が目の前にしゃがむ。
バケツのお湯を手で掬っては、ふくらはぎにちょっとづくかけていく。
「本当に沙絵ちゃんには頭が上がらないね」と言いながら。
「何で?頭が上がらないのは、私の方だよ」
妊娠して以来、私はこの人に助けられっぱなしだ。
しんどい時はいつも助けてくれた。今だって…休んでいればいいのに、ずっと付き添って助けてくれている。
この人が側に居てくれなければ…絶対に、耐えられなかったと思う。
ノリ君は「あのね、正直なこと言うよ」と、お湯をふくらはぎにかけながら、こう言った。
「正直、僕は沙絵ちゃんが『堕ろしたい』って言うのも覚悟していたんだ。
あんなに苦しんでて、大切だった仕事まで辞めなければいけなくて…それでもお腹の子を懸命に守っているから、僕も頑張らなきゃってそう思ったんだ」
確かに私は、この子を守るために仕事を辞めた。唯一しがみついていたプライドを捨て、この子を守ることにした。