水曜日は図書室で
快の『事情』
 そのときは意外と早くやってきた。
 放課後、今日は図書室での待ち合わせはない。だって昨日が水曜日だったのだ。
 今日は木曜日。快はバスケ部がある日だ。
 そして美久のスマホはやっぱり沈黙したままで。普段なら少なくとも「おやすみ」か「おはよう」のどちらかはあるのだったがそれもない。この状況では仕方がないだろうが。それでも寂しくなってしまう。
 なのでまだ快も準備ができていないだろうし、することもあるだろうからと美久は放課後、文芸部へいくことにしていた。
 コンテストへ小説を出したので急いですることはない。けれど過ごしていて楽しい場所なのは確かだから。自分も気分転換になるといいと思った。
 でも文芸部へ行くことはなかった。
 午後の最後の授業が終わったとき。授業が終わってざわざわとしているA組へ来客があったのだ。
 それは快。
 こんこんとドアを叩いて、顔をのぞかせた。
 冬休み明けの席替えで廊下側の席になっていた美久はすぐにそれに気付くことができた。
 どきんとする。
 快が用事があるのは自分だろう。そう感じられたからだ。
「美久。今日、時間あるか?」
 美久が気がついてこちらを見てくれたと知って、快は近づいてきた。
 そして言われたのはお誘いだった。
 快の顔は固かった。昨日の表情ほどけわしくはない。けれど今までとは明らかに違っていた。
 美久はごくりとつばを飲んだ。きっとこれからなにか話してくれるのだ。
 文芸部へ行くつもりだったのだが、それは明日とか……また今度にしようとすぐに決めた。別に今日は全員収集もかかっていない。休んだところでそれほど困らないだろう。
「うん。大丈夫だよ」
 美久の言葉に快は笑った。でもやはりそれはどこか固い表情のままで。
「ありがとう。じゃ、一緒に帰るか」
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