あなたの心臓になりたかった
「調理コースは、たくさんの人に笑顔を届けられるコースです!ぜひ、入ってください!」

先輩たちの発表が終わると、パチパチと体育館中から拍手が響く。私、宇野三葉(うのみつは)も手を叩くフリをした。

私の通うM高校では、二年生になると自分の学びたい専門分野の勉強をすることができる。一年生の私たちは、今日はコースで学ぶ先輩たちの話を聞いていた。もうすぐ、それぞれ学びたいコースを選ぶ。

保育コース、商業コース、林業コース、美容コースなどの先輩たちの話を聞いても、私はこのコースに入りたいとは思えない。周りも、舞台で話す先輩たちも、目を輝かせているのに、一人だけ暗くて、うつむいて……。

この場所にいたくない……。ヤダな……。逃げたい。死にたい。辛い……。

一度マイナスなことを考えたら、もう止まらない。周りが演劇コースの話で笑っているのに、私だけ泣きたくて……。

チラリと時計を見ると、まだまだこの発表会は終わらない。それが拷問のように感じた。
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