追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
 彼女が装飾棚からパッと距離を取った時、その手にはなにも持っていなかった。
 ……ただ、覗き込んだだけか? もしや、皿になにか入れたりしていないだろうな?
「お待たせプリエーラ! 喉は大丈夫!? 急いでこれを飲んで!」
 その時、厨房からアイリーンがコップを手に駆けてきて、プリエーラに手渡した。
 受ったプリエーラはコップを傾けてゴクゴクと喉を鳴らし、ホゥッと大きく息をはいた。
「ありがとうアイリーン、助かったわ。急に喉が張り付いたようになってしまって、苦しくてたまらなかったのよ」
 常になく殊勝な態度で礼を告げるプリエーラに対し、アイリーンはホッと安堵を滲ませて微笑んだ。
「よかったわ、困った時はお互いさまよ。それじゃ、ノアール様が待っているから行くわね」
「ええ、本当にありがとう」
 トレイを掴むと、アイリーンは足早にノアールの部屋に向かったが、俺はすぐには後を追わず、しばらくその場に留まってプリエーラを見つめていた。
 俺は決定的な瞬間をなにひとつ見てはいないし、こうしてにこやかなプリエーラの表情を見る限り、脳裏を過ぎった物騒な想像とは無縁に思えた。
 ……俺の思い違いだったか?
 ところが、俺が張り付いていた廊下の窓から離れようとしたまさにその時、プリエーラが口もとをニンマリと歪ませるのを視界に捉える。
 っ! 目にした瞬間、俺はノアールの部屋へと駆け出していた。

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