かすみ草揺らぐ頃 続く物語 ~柚実16歳~
 私が介入するような事案ではない。
 彼は、ひとつの大切なバンドというものを失ったのだ。
 それは、家族を失ったに等しい。
 私は、母ひとり子ひとりの家庭で育ち、父というものを知らないけれど。
 初めから認識しているものを失う方が、無知よりも厳しいと思っている。
 私は、父親の記憶がないのだから、逆に幸せでもある。
 喪失感というものがないからだ。
 きっと、今。純は喪失感にかられている。
 そっとしておくしかないだろう。
 それが、私のできる、精一杯の優しさ。
「黒沢ぁ」
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