うるせえ、玉の輿。


逃げ場がない。
笑っている業平の顔は、幸せですと主張している。

「女の勘は当たるって、貴方がさっき言ってたじゃない」
「えー……」
「貴方が今、警戒してるのは正解よ。私、とても嬉しいの。貴方が私を、助けに来てくれて、嬉しいのよ」
トンっと開けられた助手席に押し込められ、そのまま業平の顔が近づいてくる。

昨日、私がこっそりしたキスじゃない。

ジョージさんを汚してみたいと思ったキスでもない。

しっとりと濡れて、私の唇に噛みつくように侵入してきたキス。

甘いだけじゃない、キス。

「……っ」

驚いて、全ての感情が表情からぶっ飛んでいく。

パンドラの箱のように、私からすべての感情が飛んで行った。

その中に残っていた感情は、ではなんだというのだろう。

「世界中で、どこを探しても貴方みたいに最高の女の子は居ないわ」

殺し文句。
触れた唇。
満ち足りた表情。

けれど私のパンドラの箱の中に残った感情は――どれも違った。
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