伝えたい。あなたに。"second story"
『おはよう。』



『おはようございます。』



結婚するかもしれないと思うと、気恥ずかしくなってしまう。告白するときに敬語になってしまうのと同じだろうか。



『なんで"ございます"?』



『いいじゃん、大人の人には敬語を使いなさいって言われたの。』



私は嘘が得意なのかもしれない。
日々の鍛錬のおかげだろうか。



『ふーん。まあいい心掛けだね。


そういえば、先生明日から1週間海外出張だから。』

『いいね、海外。ゆうかも行ってみたい。』



海外旅行には連れて行ってもらったことがない。



両親は飛行機での長旅は耐えられないと判断したのかもしれない。まあ、一緒にいる時間さえもほとんどなかったけれど。


『今回は信じてるからね。


何ごともありませんように。』



なんの神様か知らないけれど、南の方角にお願いをしている。



『広瀬先生は?』



『広瀬先生は福岡に出張らしいよ、三日くらいいないとか。詳細は本人に聞いて。』



本人にわざわざ確認するほどではないけれど、相変わらず意味深な笑みを浮かべている。



『その顔は何?』



『元々こういう顔なので』



『へー、そうなんだ。』



『なんか冷たくない?1週間もいないって言ったら、寂しがるかと思ったのに。そのいなくてほっとするみたいな顔。先生悲しいなー。』



なんだか、ねちっこいキャラに変更されている気がする。



『その通りです。ほっとするー。』



『はい、じゃああとは採血ね、あとで看護師さんくるから。』



あっという間に診察が終わる。



こういうことだったんだ。



採血はあの研修医以来だ。



記憶が蘇ってくる。



血の気がひいていく独特な感じ。



急いで頭から振り払う。



余計な想像はしない方が良い。



『急に無言になっちゃって、いい加減慣れてよ。
採血くらいね、ちゃちゃっと受けてください。』



『ちゃちゃっとってなにさ、練習台にしたくせに。』



『あぁ、ごめんって、でも、他の人には頼めないでしょ?』



この人は呼吸をするように毒を吐くようだ。
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