ねえ、理解不能【完】
「あとね、」
ゆうのことを全て話し終えて、妃沙ちゃんに一番聞いてほしいと思ったことをいよいよ切り出す。
「うん、聞くよ」
妃沙ちゃんの優しい声。なんでも受け入れてくれそうな包容力があって、なんだかたまらない気持ちになる。
廊下からはにぎやかな声が聞こえてきていて、騒がしい。あと少しでホームルームがはじまる頃合いだろう。
今、言わないと、また言えなくなる。
ごくりとつばを飲み込んで一度瞬きをして、すっと息を吸った。
「ーー私、千草が好き」
はじめて、口に出した。
私の声はやけに響いて、自分で言ったくせに耳が震えてしまう。
妃紗ちゃんに向けた言葉なのに、心臓も痛くなって、言葉にすることで気持ちを再確認させられた。
千草が好き、思えば思うほど、心の奥に秘めた硝子が甘酸っぱい音を出しながらも粉々に割れていく。
いつの間にか俯いてしまった私の頭を、妃紗ちゃんは優しくなでてくれた。
「青、」
「……うん」
「やっと、気づいたんだね」
ーー妃沙ちゃんは、私よりも先に気づいていたんだ。
そのことを悟る。
それでも私が言うまでなにも言わなかったんだね。
妃紗ちゃんがなだめてくれる温かな声に、私はやっぱり泣きたくなってしまった。